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お待たせしました、第4回は「ドリアン−果物の王」
塚谷裕一さんの著作です!11月24日更新!
ドリアン。それはボルネオ好きにとって踏み絵のようなものだ。ボルネオだけでなく東南アジア好きの、なかでも自然好きにとってドリアンは当然「大好き!」じゃなければいけないという雰囲気があるのだ。でも、わたしは踏める(トゲが痛そうだけど)。だって臭いから。果実の王と呼ばれても臭いものは臭い。
そういうわたしなので本書を手に取ったとき、紙面からこぼれ落ちるような臭いに(気のせいです)しばし呆然とした。だってドリアンだけの本で、しかも、一般向けの新書で、なんとカラー版! ううっ。これがまだ匂い立つような写真もきれいで……。
ページを怖々とめくると、そんなわたし向けのメッセージからはじまる。曰く、「ドリアンは臭くない」と。臭いのは「外国人観光客と足元を見られて、外れのドリアンをつかまされた」ということらしいのだ。ほんとうか?
わたしのドリアン初体験は大学院生の頃。研究室の教官(もちろんドリアンLOVE人間)が東南アジアのマングローブ調査のおみやげに「ドリアン羊羹」を買ってきたのだ。うやうやしく切り分けれたドリアン羊羹を口に入れた時のことを、今でもよく覚えている。
「タマネギのみじん切りをベースに挽肉といっしょにボールに入れてよく練り、日なたに1週間ぐらいおいたような臭いがする」
我ながら理系らしい明晰かつ具体的な分析だ。なにしろ本書によると、ドリアンの臭気成分……いや、香気成分にはタマネギ臭と関知される成分が含まれているという。やっぱり。
しかし、この羊羹も著者に言わせると観光客向けに作られた“臭いもの”らしい。羊羹だって、うまいものはうまいと。ほんとうか? なにかボルネオの人たちを疑うような話だが、本書を読み進むうちに、ほんとうにうまいんだ……と思うようになる。それは、著者の想いに感染するようなものだ。そう、この本からこぼれ落ちるような臭いの元は、著者のあふれんばかりのドリアンへの愛なのだ。
本書はドリアンを題材にした植物学の基本講座として、また、日本と東南アジアの歴史、日本の近代における果実食史をたどる講座でもある。著者は東京大学の教授で専門は植物の分子遺伝学。しかし、ボルネオをはじめとした海外でフィールドワークも多く、植物と人の関わりを文学でたどる著書もある多彩かつ多面的な学者だ。そのため、本書もドリアンが縦横無尽に切られ、たとえドリアンが嫌いでも、興味深くていっきに読めるはずだ。そして、ドリアン嫌いの心がちょっと揺らぐはずだ。
著者が繰り返すのは、本当にうまいドリアンは臭くなく、それを見抜く目なり、鼻なりが必要だという点。それでいて、臭いの感じ方は人それぞれで、ダメな人はやっぱりダメだという点も指摘している。やっぱり臭いんじゃんというつっこみはさておき、ドリアンは人を選ぶが、人もきちんとドリアンを選ぶ必要があることなのだろう。わたしもドリアンに選ばれたいものだ。

ボルネオの森の恵みドリアンは、オランウータンだけでなく、東南アジア全域の人々を魅了し、そのチカラは日本にも及びつつあるようだ。なにしろ本書の最終章で驚くべきものを発見した。それは、著者がドリアンの栄養成分を説明するために挙げるデータが『五訂増補日本食品標準成分表』によるものなのだ。そこで、温州みかんとかと並んで、ドリアンの栄養成分も丁寧に分析されている! いつから日本食品に!(“日本”のかかる場所がちがうけど) これは著者による日本ドリアン計画(勝手につけました)の工作活動の一環なのか!?
とりあえずこの著者に、ボルネオでほんとうにうまいドリアンを選んで食わせて欲しい、そう思う今日この頃のわたしである。(神谷)
※写真は92年1月。コタキナバルの市場にてはじめての生ドリアン体験。この顔がすべてを物語っています。あの屋台の人のよさそうなオヤジがわたしの足元を見たのか!?
(中公新書 980円+税)